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自律的な転居を考慮した大都市郊外の人口動態シミュレーション(山田訓平 2016)

研究詳細

背景

 今日の人口減少社会において,各自治体には長期的な都市の存続のための政策決定が求められている.人口減少は地方都市において顕著な問題であったが,現在は大都市圏でも例外でない.今後は,郊外都市にみられる性質を考慮した将来人口の新しい分析手法が求められるといえる.本研究では,大都市郊外における人口に関わる政策効果の分析と可視化を目的として,エージェントベースシミュレーション (ABS) を用いて住民の転居をモデル化した新しい将来人口推計手法を提案する.

先行研究と本研究の位置付け

一般的に,将来人口推計にはコーホート要因法,多地域モデルが用いられる.コーホート要因法は一つの 地域内で既存の人口組成から年齢別の加齢,死亡,出生の計算を経て将来の人口を推計する手法で,多地域モデルは複数都市間の人口の移動統計から社会移動によ る人口変動を扱うモデルである.本研究ではコーホート要因法を用いて住民の自然増減を記述し,転居を表現するモデルによって複数地域間の人口の移動を表現 するため,コーホート要因法と多地域モデルの改良と位置付けられる.

ABSでは,属性を持つ意思決定主体 (エージェント) が自律的に振る舞うことで目的の現象を大域的に表現する.福田は,限られた統計データから近似的な世帯構成の組合せを導出する手法を提案し,相澤は, 地方都市内での人口動態を表現するモデルを提案した.

モデル

本研究で用いるモデルは,神奈川県に位置する6市区 (高津区,宮前区,青葉区,都筑区,緑区,大和市) をモデルケースをして設計した.それぞれ都市は立地や人口を属性として保持しており,それぞれは1 年に対応するシミュレーション1期ごとに変化する.

住民に対してt期の操作は「死亡」,「加齢」,「出生」, 「婚姻」,「自立」,そして「転居」からなる.またこのとき,世帯に含まれる住民エージェントのいずれかが 「死亡」,「出産」,「婚姻」,「自立」のイべントを経験したとき,その世帯は「転居」を行う.「転居」を行う世帯は,年齢と世帯構成から6分類され,それぞれのパ ラメータにもとづいて転居を行う.パラメータは3種類あり,a1 : 世帯が実際に転居を行う確率, a2 : 転居先の決定が立地志向か特性志向かを示す割合,a3 : 重力モデルにおける係数 とする.このとき,立地志向の転居とは都市の立地の良さに基づいた転居を,特性志向の転居とは都市の施設の充実度に基づいた転居を指す. 各パラメータは遺伝的アルゴリズムで統計データに対して最適化した.

モデルの評価とシミュレーション実験

2010年までのデータから2015年の青葉区の人口組成を推計した結果を Fig.1 に示す.コーホート要因法による推計結果と比較して本モデルの結果が統計値に 近い事がわかる.同様に,世帯構成の割合からもモデルの妥当性を評価した.

次に,モデルケースとして設定した6都市について青葉区の「青葉区まちづくり指針 3) 」に記載されてい る若年子供連れ世帯の誘致政策を評価した.2010-2049 年の期間で,施策を実施する場合としない場合での年 齢階級別の人口増加率から評価を行なった.得られた 傾向の例を以下に示す.

  • 施策の効果は数年後から徐々に向上するため,早期の実行が効果的である.
  • ただし,2020-2024年より2025-2029年の施策の方が2040年時点での効果が高いなど,最適な期間が前後することがある.
  • 若年子供連れ世帯の誘致によって,およそ25年後から若年夫婦世帯の数が増加する.
  • 今後の展望と課題

    本研究では世帯分類ごとに異なる転居を仮定することで,大都市郊外の都市間の社会移動の表現を可能にした.また,都市の住民誘致政策について,最適なタイミングと期間はいつか,それによってどのような影響が起こりうるかということについて分析を行い,政策決定のために定量的な議論を行なった.

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