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地方中核都市における基礎需要推計モデルの構築と政策評価・分析(相澤景 2014)

研究詳細

背景

人口減少下の地方中核都市では,教育や医療などのさまざまなサービスの供給量が需要量に対して過剰となる.そのため,需要量と供給量をうまくマネジメントする適切なサービス水準設定政策が必要となる.しかし,行政にとって最適なサービス水準設定は,多様なステークホルダー間の合意形成をおこなう必要があるため難しい.それゆえ,地方中核都市におけるサービス水準の設定という政策決定に向けた合意形成をいかに支援するかが課題となる.

本研究の目的は,政策に関する合意形成支援において有効となるような地方中核都市における基礎需要推計モデルと政策評価フレームワークの構築とする.基礎需要とは,日常生活に関して必要なサービスに関する需要のことを示す.基礎需要推計モデルとは,仮想的な地方中核都市を構成し,仮想都市の区域別に人口・基礎需要を推計するモデルある.また,基礎需要推計モデルは,仮想的な政策に対応した人口・基礎需要の推計も可能とする.政策評価フレームワークは,政策に関する利点・欠点・課題の発見を支援する政策評価の枠組みである.

先行研究と本研究の位置付け

従来研究では,行政が政策代替案を決定するための需要予測モデルや政策評価手法の構築が行われてきた.しかし,合意形成の状況では代替案決定よりも,ステークホルダーが政策に関して十分な情報から議論を行い,課題を発見するプロセスの支援が重要となる.それゆえ,本研究の位置づけを以下の2点にまとめることができる.(1)本研究では,サービス水準設定の政策に関する十分な情報にもとづく合意形成における議論に有効な需要推計モデルの構築を行う.(2)本研究では,市民が情報にもとづいてサービス水準設定政策に関する利点・欠点・課題を発見することを支援する枠組みを提供する.

基礎需要推計モデル

基礎需要推計モデルは,仮想都市モデルと基礎需要計算モジュールから構成される.仮想都市モデルはエージェントベースモデル(ABM)によって構築され,地方中核都市の人口変動を表現する.そして,仮想都市モデルは地域別の時系列人口・世帯数データを出力する.基礎需要計算モジュールは,仮想都市モデルから出力された地域別の時系列人口データ・世帯数データから,教育・医療・消費というサービスに関する基礎需要データを出力する.基礎需要推計モデルはFig .1の通りである.

仮想都市モデルは,ABMによって構築された地方中核都市の人口変動を表現するモデルとなる.また,仮想都市モデルは,地方中核都市を表す仮想都市空間・仮想都市空間外部という場,家・駅・病院・学校という空間,そして人間エージェントからなる.仮想都市空間は,中心部と郊外部から構成される.人間エージェントには,状態変数と行動ルールが設定され,居住する家空間が割り当てられる.また,家・駅・病院・学校という空間には,場のいずれかが割り当てられる.仮想都市における人口変動は,人間エージェントの転入・市内転居・転出・死亡と新たな人間エージェントの出生という行動によって起こる.仮想都市モデルは,Fig. 2の通りである.

政策評価フレームワーク

政策評価フレームワークは,ステークホルダーがサービス水準設定政策に関する利点・欠点・課題を発見することを支援する評価枠組みである.具体的には,(1)供給量に対する適正需要量・需要量に対する適正供給量の算出,(2)シナリオ間で指標の共時的比較を行う枠組みである.政策評価フレームワークを実際に運用するためには,具体的なサービスに適用する必要がある.さらに,本研究では政策評価フレームワークの有効性の検討が目的のひとつである.それゆえ,本研究では政策評価フレームワークの教育サービスへの適用を通じて,有効性の検討を行う.

シミュレーション実験

構築した仮想都市モデルについて,シミュレーションを行った.実験では,現実の地方中核都市のひとつである青森市を想定した仮想都市を構築した.また,現状が進行したシナリオ(ベースシナリオ)とコンパクトシティ政策の施行を想定したシナリオ(政策シナリオ)について実験を行った.この実験の評価指標は,人口・需要量・供給量・適正需要量・適正供給量である.実験結果として,Fig. 3~Fig. 6のようなベースシナリオにおける中心部・郊外部それぞれの人口ピラミッドの推移やTable 1・Table 2のような基礎需要と適正供給量などの推移を得た.

実験結果から,基礎需要推計モデルの出力情報によって,ステークホルダー間で政策について根拠をもった議論が可能となることを検討した.そして,各シナリオの実験結果に対して政策評価フレームワークを利用した情報可視化と利用しない情報可視化を行い,それぞれの可視化を比較することで,政策評価フレームワークの課題発見における有効性を示した.

今後の展望と課題

本研究の目的は,政策に関する合意形成支援において有効となるような地方中核都市における基礎需要推計モデルと政策評価フレームワークの構築であった.して,仮想都市モデルを用いたシミュレーション結果と考察から,合意形成支援におけるモデル・フレームワークの有効性を示した.

今後の課題としては,情報提供に付随する「科学的」な説明責任という問題に対して,その情報の前提条件・制約条件・分析方法の情報をいかに示すかの方法論の構築が考えられる.そして,政策評価フレームワークのほかの病院・消費といったサービスへの適用も組み合わせることで,より多くの発見が可能となることを示すことも考えられる.さらに,日常生活に必要な労働需要などの推計が可能となれば,より広い視点からの議論につながると考える.

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