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ABSによる中国携帯電話コミュニケーション市場における戦略分析(Wang 2012)

典型的な新興市場である中国における第三世代モバイル通信サービス(3G)が2009年に始まり、現在ユーザー数は急速に成長している。しかし、3Gは比較的に新しいサービスであるため、現時点ではまだ普及してない状態である。このような背景では各キャリアにとって将来性のある3G通信市場をおさえることが重要な課題となっている。本研究はエージェントベースアプローチおよび統計的な手法を用い、3G市場をモデルとして表現し、各キャリアに対する優れた市場戦略を評価する。さらに、異なる市場環境においては、各市場戦略の効果はどのように変動するということも解明したいと考えている。なお、モデル構築には、社会シミュレーション言語SOARSを利用しています。

2012年度 工学修士 Wang Weiyang

研究詳細

1.背景

中国における第三世代モバイル通信サービス(3G)が2009年に始まり、現在ユーザ数は急速に成長している。各モバイル通信事業者(キャリア)公式サイトの公表データより、現在、新規ユーザにおける3Gユーザの比率はすでに50%を超えていた。しかしながら、3Gユーザ数はモバイル通信ユーザ総数の約16%しか占めていなく、3Gサービスはまだ広く普及していない状態である。このような背景では、各モバイル通信事業者(China Mobile、China Telecom、China Unicom)にとって、より多くのユーザを確保し、大きな将来性を持つ3G通信市場をおさえることが重要な課題となっている。

2.研究目的

本研究はエージェントベースアプローチを用い、ユーザ、コンテンツプロバーダー、モバイル通信事業者および端末メーカー間の相互作用による複雑な選択の意思決定プロセスを捉え、ボトムアップで中国の3Gモバイル通信市場をモデルとして表現する。その上で、いくつかの市場戦略シナリオを分析し、各キャリアに対する優れた市場戦略を評価する。

3.先行研究

ここでは通信市場およびプラットフォーム戦略に関する先行研究を紹介する。Kimらはロトカ-ヴォルテラモデルを用い、韓国の携帯電話の需要関数を求め、携帯電話市場の競争関係を分析した。Onoらは統計分析手法を用い、モバイル通信サービスにおける端末の重要性を解明した。XiaとKarjaluotoはケーススタディでモバイル通信市場を分析し、市場の発展にかかわる要素について議論した。Deguchiは社会学習を含む動学プロセスに基づくモデルを用い、プラットフォーム型市場においては、外部性よるロックインが強く生じることを解明し、「このようなロックインによって、フェアでない競争環境を惹起する可能性がある」と述べた。これらの研究はマクロレベルのモデルあるいはケーススタディを用い、有意義な結果が得られた。しかしながら、モバイル通信市場には前述したプラットフォーム外部性のように、多様な個体の複雑な相互作用が存在しているため、従来の単純な数理モデルあるいはケーススタディに基づいた研究にとっては、これらの個体のマイクロレベルの行動と相互作用を捉えるのは困難である。また、別々の個体の意思決定プロセスを考察することも難しい。そこで、本研究はこのような弱みを克服可能なエージェントベースアプローチを用いる。エージェントベースアプローチは市場に存在する個体(ユーザなど)をモデル化し、動かし、相互作用させることで、ボトムアップでモバイル通信市場というシステムを捉えることが可能である。藤川はエージェントベースアプローチを用い、日本の携帯電話市場を分析し、各キャリアの投資戦略とプラットフォーム戦略を評価した。藤川のモデルは成熟市場である日本のモバイル通信市場の現実に特化したモデルであり、新規ユーザの流入などを扱っていないため、新興成長市場(新規ユーザ数は急速増加している)である中国のモバイル通信市場を表現することが困難である。また、エージェントベースアプローチを用い、新興成長モバイル通信市場をモデル化した研究はほぼ存在してない。そこで、本論文は新興成長モバイル通信市場の現状に基づき、新規ユーザの流入とプラットフォーム外部性を考え、エージェントベースアプローチを用い、ボトムアップで新興成長市場である中国の3Gモバイル通信市場をモデルとして表現する。その上で、付加価値サービス、モバイル通信端末およびネットワークという三つの投資先への投資戦略を考慮し、各モバイル通信事業者のプラットフォームのクローズ・オープン戦略シナリオの分析に注目し、各キャリアに対するプラットフォーム戦略を評価する。

4.モデル

本研究では、エージェントベースシミュレーション言語SOARSとJavaを用い、モデルを構築する。1ステップを1ヶ月とし、シミュレーションの期間は36ステップとする。毎ステップ各エージェントは意思決定を行い、行動する。モデルには四種類のエージェントが存在し、それぞれ消費者(ユーザ)エージェント、通信事業者(キャリア)エージェント、通信端末製造者エージェント、コンテンツプロバイダーエージェントになります。

キャリアエージェントはステップ毎に市場戦略に従い、投資を行い、各変数を更新する。消費者(ユーザ)エージェントの行動については、ステップ毎に、まだ3Gを使用してないユーザエージェントはステップごとに確率で3Gを利用するかどうかを決める。利用すると決めた場合、確率でキャリアを選択する。すでに3Gを利用しているユーザエージェントはステップごとにキャリアの乗り換えを検討し、乗り換えと決めた場合、確率でキャリアを選択する。キャリアの選択が終了してから、確率でプラットフォームの選択を行う。通信端末製造者エージェントはステップ毎に確率でキャリアを選択する。コンテンツプロバイダーエージェントはステップ毎に確率でプラットフォームを選択する。

5.まとめ

本研究では、典型的な新興市場である中国の3G通信市場の現状に基づき、エージェントベースアプローチを用い、ユーザ、コンテンツプロバイダー、モバイル通信端末製造者という三つのステークホルダの複雑な選択の相互作用によるプラットフォーム外部性および各モバイル通信事業者のサービス展開に深くかかわる付加価値サービス、モバイル通信端末、ネットワーク品質という3つの要素を表現するシミュレーションモデルを構築した。その上で、構築したシミュレーションモデルを用い、プラットフォーム戦略における契約ユーザ数の向上とプラットフォームユーザ数の向上の間のトレードオフ関係を表現し、投資戦略を考慮し、各キャリアにとっての優れたプラットフォーム戦略を分析、評価した。さらに、異なる市場環境においては、各市場戦略の効果はどのように変動するということも解明した。また構築されているモデルは、新興市場の特徴を表しているため、本研究の結論をほかの新興モバイル通信市場に適用されることが可能である。

6.今後の課題

本研究は、2つのキャリアがデフォルト戦略を採用することを前提とし、残りの一つのキャリアの有効な市場戦略を分析したが、相手がデフォルト戦略以外の戦略をとった場合に、キャリアにとって、どのような戦略がすぐれているかについての分析を行なっておらず、今後の課題となっている。また、データの不足で、家族割引などプロモーション戦略についての分析が行われていない。こういった値段に関する戦略の分析もこれからの課題になっている。

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