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工期とコストの評価分析可能な集合住宅内装工事モデルの構築(五十嵐 2012)

集合住宅内装工事のように,多様な雇用形態や複雑な作業間関係などの制約を含む工程管理問題は現実に多く存在する.このような背景から,複雑な制約条件を含み,作業員単位で管理を行なえる工程管理の手法が必要とされる.本研究では,先行研究のケーススタディを踏まえ,様々な形態の集合住宅内装工事に適用可能な工程管理のためのモデルを構築した.具体的には,作業員の投入人数と工期・コストの関係が分析可能なモデルを構築した.また先行研究において,作業員の投入人数探索手法として実験計画法の逆利用を行なっている.しかし,この探索手法の有用性は検証されていないため,本研究では,その有用性を局所探索によるマイルストーン区間分析法を用いて比較検討を行った.なお, モデル構築には, 社会シミュレーション言語SOARSを利用している.

2012年度 工学修士 五十嵐 雄貴

研究詳細

はじめに

建設工事は,多数の作業員が動員されており,その雇用形態は様々であるため,工事現場での各種工事の平準化は難しい.こうした状況を改善するために,建設工事の工程計画には様々な工程計画手法が導入されてきた.しかし,建物の高層化に伴い,従来の手法では満足のいく工程計画を行なうことが出来なくなりつつある.従って,集合住宅を施工する建設会社にとって,集合住宅をいかに効率よく建設するかが大きな課題となっている.

集合住宅建設工事では,着工すると建物の骨組みを作る躯体工事から開始し,内装工事を経て完工となる.躯体工事は,作業員の職種に限りがあり,進捗状況が一望できるため,比較的管理がし易い.一方,内装工事は職種や工程数の膨大さ,作業の前後関係の複雑さから多様な工程の進捗が存在し,工程管理が大変困難であると言われている.

このような中で出口研究室は,この集合住宅の内装工事について,2008年より小松ら,鳥飼らが集合住宅内装工事のモデル化のために研究を行なっており,本研究では継続して,株式会社竹中工務店と共同で,エージェントベースモデリング(以下, ABM)を用いた工程管理の分析が可能なモデルの構築を行なった.

先行研究

出口研究室においては小松らが,集合住宅内装工事を,ABMを用いてモデル化した.ABMを用いることによって,従来の手法では困難であった作業者の裁量や雇用形態を表現した.また,職種ごとの作業人員の変化による影響,作業者の作業効率,住戸稼働率を考慮した内装工事全体の工期を評価出来る手法を提案した.その結果,人数が増大するに従って, 総工期日数は削減されるが, 線形的に縮むのではなく,削減率は減少することを示した. これは工期を縮めるためには作業員を多く投入する必要があるため賃金コストが増すが, 賃金コストを抑えると工期が延びてしまうというトレードオフが存在するためと考えられる.

このトレードオフは従来から問題にされているが,内装工事の複雑さ故に,これらを分析する手法は存在していない.鳥飼らは, この小松らが示したトレードオフに着目し, 小松らのモデルを基に,実際の事例における実データに基づいたモデルを構築した.そして,複雑な制約条件を含む集合住宅の内装工事をABMで表現することにより, 従来手法で出来なかった作業員単位の管理を行えるモデルを提案した. その結果, 他の職種の作業状態に影響を与える特定の職種を効率的に増員することで,工期とコストの二つの指標を, 実際の現場での実測人数と比較して双方改善出来るような作業員投入人数の組み合わせのパレート解の存在を明らかにした. また,作業員投入人数組み合わせを効率的に探索する手法として実験計画法を用いた探索手法を提案し,非常に短時間で増員すべき職種を特定できることを明らかにした.しかし, このモデルは, 実際に竣工された高層マンションの事例に基づいて構築され,工期とコストの削減を達成するためにモデルの有用性を示したが,他の事例に導入するまでは想定しておらず,他の適用事例についての検証がなされていない.

研究目的

本研究では,鳥飼らの研究において行なった実際の事例を用いたケースステディを基に,特定の集合住宅だけでなく,あらゆる集合住宅内装工事の工程管理を評価分析可能なモデルを構築することを目的とした.具体的には,建物・作業員・タスクに関するデータを入力とし, 総工期日数と賃金コストを出力することで, 内装工事工程管理を評価可能なシステムを構築し, 2つの指標から作業員の最適投入人数を分析できるモデルの提案を行なった. 最終的には, 集合住宅内装工事に投入する作業員の人数を決定する際のゼネコンの意思決定に寄与できるモデルを提案することを目的とした.

モデル

本研究では, 集合住宅内装工事の工程管理を評価可能なモデルを構築した.モデルの全体像を表したものを図1に示す.モデルは意思決定を行なうエージェントとなる作業員と, その作業員が行動する場となる作業現場から構成される. なお, モデル構築にあたっては, 社会シミュレーション言語:SOARSを利用した.

作業現場は,集合住宅内の加工対象である各住戸を示している.また住戸の他に,進捗表という工事の進捗状態や作業員が作業を行いに赴くべき部屋の情報等を保持している作業事務所がある.

作業員とは, 作業現場で作業内容を実行する主体であり生産資源と考える. 各作業員は職種を割り当てられており, それぞれ可能となる作業内容が異なる.作業員は当日,着手可能な作業があれば, 入社時刻になると出社する. そして出社すると現場事務所へ行き進捗表を確認する. 前日の残作業があればその部屋へ, 無ければ作業可能な部屋へ向かい, 作業可能な部屋が無ければ次ステップに再度,可能な作業を探索する. 作業現場である部屋へ赴くと, 部屋の中で作業している他の作業員がいないこと,取りかかろうとしている作業が完了していないことを確認し, 作業に取りかかる. 他の作業員がいた場合,既に完了していた作業だった場合は, 他に作業可能な部屋があればその部屋へ赴き,無ければ現場事務所へ戻り, 再度可能な作業を探索する. 作業終了後は現場事務所へ戻り, 進捗表を更新する. 作業員はこの行動を退社時刻まで繰り返す.

作業員探索手法の比較検討

本研究ではこれらのモデルを用いて,作業員の最適な投入人数の組み合わせを探索する手法を検討した.鳥飼らの研究において,作業員の投入人数探索手法として,実験計画法を用いた手法が提案された.しかし,この手法の有用性は検討されていなかった.従って,本研究においてその有用性の検討を行なった.方法としては,以下の2つの手法により探索した投入人数のシミュレーション結果より改善効果の優れていた方を有用な手法とした.

  1. 全工程における実験計画法を用いた探索手法(鳥飼らの提案手法)
  2. 局所探索におけるマイルストーン区間分析法(本研究の提案手法)

その結果,2つのの探索手法双方において改善効果が見られたが,実験計画法による探索手法がより優れていることが示せた.

まとめと今後の展望

先行研究のケーススタディを基に,複雑な制約条件を含む集合住宅の内装工事を様々な形態の集合住宅に適用可能なモデルを構築した.また,内装工事における作業員投入人数問題に対して,先行研究で提案された実験計画法を用いた探索手法の有用性の検討を行なった.その結果,各タームにおける局所探索手法によって効率的に改善可能である職種を特定することを示せたが,実験計画法を用いた探索手法で得られた結果には及ばなかった.従って,実験計画法を用いた探索手法は全工程における増員効果の高い職種を特定する上で有用な手法であることを明らかにした.

最後に本研究では,局所探索手法より実験計画法を用いた全体探索手法が優れていることを示したが,他の全体探索手法とは比較していない.実験計画法を用いた探索手法の有用性を示すために,他の全体探索手法と比較することが今後の課題として残されている.

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