ホーム > 研究内容 > ABMを用いた集合住宅内装工事における工期と賃金コストの分析(鳥飼 2011)

ABMを用いた集合住宅内装工事における工期と賃金コストの分析(鳥飼 2011)

集合住宅内装工事のように、多様な雇用形態や複雑な作業間関係などの制約が存在する工程管理問題は現実に多く存在する。本研究では、このような工事の工程管理に対する、新しい管理手法を提案する。方法論として、これらの制約条件を含む工事内容をエージェントベースモデリングで表現して分析した。その結果従来の管理手法では表現困難であった、作業員という可動な生産資源の競合や、その競合が数十、数百という複数の部屋間で起きるような状況を表現する事が可能になった。本研究では特に「作業員の増員」と「支払い賃金」という従来トレードオフの関係にあると言われてきた指標に着目しており、生産計画の立て方によって双方改善できる可能性を示した。なお、モデル構築には、社会シミュレーション言語SOARSを利用しています。

2011年度 工学修士 鳥飼大祐

研究詳細

1. 背景と目的

我が国のゼネコンにとって,工程管理における作業員への支払い賃金を考慮したスケジューリングは,プロジェクトにおいて重要な要素となる.なぜならば,ゼネコンは作業員への賃金という外注加工費がコストの割合として大きくなるからである.そこで,本研究では,ゼネコンの工程管理について,株式会社竹中工務店と共同で,武蔵小杉に竣工された高層マンションの事例に基づくデータを用いてエージェントベースモデル(ABM)を構築し,工程管理の分析を行う.

工程管理の分析について,本研究では特に,2つの側面に着目する.第1は,集合住宅の内装工事の複雑さである.集合住宅の内装工事は,工程数が膨大であり,作業間の関係が複雑であるため,進捗の管理が難しいと言われる.第2は,工期とコストのトレードオフ関係である.ゼネコンのプロジェクトにおいて重要なひとつの要素が工期の短縮である.また,もうひとつの要素として,外注加工費(賃金コスト)の削減も重要となる. しかし,作業員数に対する工期とコストの関係はFig.1に示すように,トレードオフの関係がある.本研究では,複雑な内装工事の工程管理において,トレードオフの関係にある工期とコストという指標を双方改善できるような作業員投入人数の決定手法を提案する.

2. 方法論

2.1. 既存研究

集合住宅の工程管理における先行研究には,躯体工事におけるコストの最小化を目的とする工程管理計画を作成する手法を提案した植田らの研究がある.しかし,この方法は,内装工事が対象とされていないため,複雑な雇用関係や作業間関係による作業員の状態の動的な変化が反映されていない.また,建設工事で広く使われている手法として,連続する工程からクリティカルパスを計算するクリティカルパスメソッドがある.しかし,内装工事では,並列的に住戸の分だけ作業が進む特徴から,作業員というリソースの競合が起こる.クリティカルパスメソッドでは,複数の加工対象があるときにリソースの競合が起こる場合に対する計算方法が定義されている訳ではない.

2.2 エージェントベースモデリングの適用

本研究では,上記の特徴を持つ内装工事をモデル化するためにエージェントベースモデリングを適用する.エージェントベースモデリングとは,個々の主体(エージェント)がもつ多様な意思決定基準に応じて自律的な活動を行い,それを制約条件や評価指標に基づいて機能的に分析することを狙いとして手法である.エージェントベースモデリングを利用することにより,各作業員の状態の変化やそれに応じた工事全体の変化を反映したモデルが構築可能となり,制約条件や評価指標に基づいた工事計画の分析が可能となる.

4. モデル

モデルは,株式会社竹中工務店が扱った実際の工事事例のデータに基づいた作業員の作業状況や行動などを考慮したものを開発する.なお,モデル構築には社会シミュレーション言語SOARSを利用した.

4.1. モデル概要

ABMでは,個々のエージェントとエージェントが移動や相互作用を行う場の設計が必要となる.内装工事では,作業者がエージェント,場が作業現場・現場事務所・詰め所に相当する.作業現場とは,集合住宅内の加工対象である各住戸を表している.現場事務所は,工事の状態や各住戸の情報を保持した場であり,詰め所は作業員が手持ち状態で待機するための場である.作業者とは,作業現場で作業内容を実行する主体である.各作業者は職種に属しており,職種に応じて意思決定を行い,作業を進めていく.なお,シミュレーションの1ステップは6分である.

4.2 詳細設計

ここでは,作業現場・作業者についての詳細な設計を行う.作業現場は,建物の各住戸が対応する.各住戸は,間取りと完了作業リストという変数をもつ完了作業リストは,住戸毎に完了した作業の集合である.

作業者は,職種が割り振られ,職種毎の可能な作業の集合である作業リストを保持する.また,各作業にはその作業の前に実行されなければならない作業の集合である先行作業リストが定められている.各作業者は,作業リストにある先行作業リストと現場事務所にある進捗表である完了作業リストとを比較し,作業可能な場合その部屋へ赴く.作業完了後は現場事務所へ戻り,完了作業リストを更新し,同様のプロセスで作業現場リストから次の作業現場を選択する.作業者は,この作業を出社・退社を行いながら繰り返す.

また,モデルの評価指標として,外注加工費と作業員の稼働率を定義しする.コストと効率性を定量的に評価することで,工期に対するトレードオフの分析が可能となる.

5. 投入人数組み合わせ探索の提案手法

ここでは,上記のモデルに対して,作業員投入人数を現実から変更し,工期と外注加工費,または,工期と投資ロス率(投入人数が増えた際の作業効率低下によるゼネコンの損失を表す)というトレードオフ関係にある指標を双方改善するために,人数の組み合わせ問題を解く探索手法を提案する.本モデルには,42職種が存在し,例えば42職種について人数を10段階変更する探索を考えると,10の42乗の空間探索が必要になる.これは現実的な探索ではない.

そこで,本研究では,42職種に対し増員する投入人数の組み合わせ,D=(d1,d2,・・・,d42)についてのパレート最適集合を見いだす方法を提案し,それを用いて分析を行う.

  1. 以下の2工程で職種をしぼる.
    1. 職種の評価値に対する重要度をスコアリングし15職種にしぼる.
    2. 15種類の職種について,実験計画法により,最も評価指標に対して影響が大きい職種を特定する.
  2. 注目した職種について,10段階人数を変えて(他職種は標準人数として)パレート最適集合を見いだす.

6. シミュレーション結果と考察

本モデルに対し,シミュレーションと5章の提案手法を用いて投入人数の組み合わせ探索を行った.その結果,5章1-1から15職種としぼることができた.その15 職種のうち,5章2-2の実験計画法を用いることで,評価指標に対して影響度の大きい職種として床暖房工を示すことができた.そして,床暖房工の人数を,5章の(2)のように0~10人増員した場合の評価値をFig.2,Fig.3のように算出した. 各グラフから,2人または3人床暖房工を増員すれば,工期と外注加工費,または,工期と投資ロス率という評価指標においてパレート改善することが分かった.

7. まとめ

本研究は,第1に,集合住宅内装工事の工期とコストの構造を表現することを可能とした.第2に.投入人数組み合わせ探索に関して新たな手法を提案し,従来トレードオフの関係にあると考えられていた工期とコストという2つの指標に関して,双方改善できる可能性を示した.この手法は,投入人数の組み合わせ爆発を防ぎ,短時間で増員すべき作業員を探索できるので,実用的であると言える.

8. 今後の課題

実際のゼネコンの業務では,作業員に関して細かいスケジュール管理を行えるわけではない.市場がグローバル化し,価格競争に強い新興国の企業等がライバル企業になる昨今, ゼネコン業界は従来のような作業員投入人数の決定の仕方で予算と納期のみの計画を立てる方法ではなく, 作業員単位というレベルで管理するような工程管理の方法への移管が求められており,それに応じた研究が必要である.

ページのトップへ
Copyright (C) Deguchi Lab. Since 2002. All rights reserved.
degulab[at]cs.dis.titech.ac.jp