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集合住宅内装工程計画におけるエージェントベースモデリングの適用(小松 2009)

集合住宅の内装仕上工事は,効率化の余地が残されているが,様々な職種が錯綜しながら進捗するため,従来のトップダウン型の手法は馴染みにくい。本研究では,エージェントベースモデリングの手法に基づきモデル化する手法を提案した.これにより,職種毎の作業人員の変化、住戸の稼働率を評価すると共に内装仕上工事全体の工期を評価できるようになった。また,モデルのプロトタイプを作成し、建築現場で起こるシナリオの分析を行い,増員効果が発揮される作業と発揮されない作業が存在すること、探索順序の違いによって工期に実作業現場にて無視できない程度の差異が生じることなどを示した. なお、モデル構築には、社会シミュレーション言語SOARSを利用しています。

2009年度 工学修士 小松祐介

研究詳細

1. 背景と目的

集合住宅の内装仕上工事では,作業の効率化による工期の短縮が求められる.本研究では,集合住宅の内装仕上工事を『生産資源寄り付き型』のフローショップスケジューリング問題と定義する.一般のフローショップスケジューリング問題は,加工対象が機械などの生産資源上を移動し生産が行われるが,集合住宅の内装仕上工事の場合は,住戸という加工対象に対して作業員という生産資源が移動する特徴を有する.この点で,一般のフローショップスケジューリング問題で扱われる数理モデルでは,『生産資源寄り付き型』のフローショップスケジューリング問題を解くことは難しい.

本研究では,『生産資源寄り付き型』のフローショップスケジューリング問題において,作業の効率性や工期を評価可能なモデルを構築し,そのモデルの有用性を示す.また,モデルを用いて,現場で起こる問題に基づくシナリオ分析を行う.

2. 先行研究

躯体工事の繰り返し生産を想定した研究は,植田らのコストの最小化を目的とした工程計画を作成するための繰り返し型建築工事のモデル構築や,工区(ある時間的まとまりの仲で作業を行う対象となる単位空間)の分割を扱った安藤らの研究などが存在する.しかし,それらの研究では,作業者の意思決定は考慮されておらず,かつ,内装工事は作業者の作業場所をトップダウン的に指示することができないため,作業者の間での複雑な相互作用が存在する.そのため,作業者の作業終了後の住戸移動に関する意思決定を考慮する必要がある.

3. 方法論

集合住宅の内装仕上工事では,各作業者がどの住戸で作業を行うかといった意思決定や行動が,工事計画全体に及ぼす影響を把握できるモデル化と,それに基づいたステークホルダー間の調整が必要となる.また,総工期日数や生産効率などの指標を,作業の先行順序や工事の進捗という制約条件の上で考慮する必要がある.

本研究では,上記の特徴を持つ内装仕上工事をモデル化するためにエージェントベースモデリング(ABM)の手法を適用する.ABMによって,工事全体の指標である総工期日数や労務コストの分析,個々のエージェントである作業者の効率分析が可能となる.

4. モデル

ABMでは,個々のエージェントの設計と,エージェントが移動や相互作用を行う場の設計が必要となる.本モデルでは,場として作業現場を設計する.作業現場とは,集合住宅内の各住戸を表しており,加工対象である.エージェントとしては,作業者を設計する.作業者は,作業現場で作業内容を実行する主体であり,生産資源である.作業者は職種毎に可能となる作業内容が異なる.

モデルでは,各作業現場を作業者が移動し,作業を行っていく.その際,各作業者は,職種に応じて作業リストという変数を持ち,これと各作業現場で作業が完了した作業リストを比較し,作業が可能な場合はその作業現場に入り,作業が不可能な場合は他の作業現場を探索する.作業現場の探索には,その分の探索時間が要求される.各作業には,先行作業リストという先に完了されていなければならない作業が設定される.また,請負と雇用という作業者の雇用形態が作業場所の探索順路に影響することを考慮する.すべての作業現場での作業が終わったとき,つまり集合住宅内装工事が完了したとき,総工期日数を出力し,シミュレーションを終了する.なお,シミュレーションのステップは,現実時間の1分単位である.

5. シミュレーション分析

5. 1シミュレーション結果

ここでは,シナリオを設定してシミュレーションを行うことによって,ABMを用いた内装工事過程のモデリングによって,工事の総工期日数を算出するとともに,個々の作業者の作業状況や住戸の稼働率を算出し,その有用性を明らかにした.

シナリオは,①作業を分割または統合することがよいのかというタスク細分化問題,②フロア数と工期の関係性を検討するための構造体問題,③作業者の投入数と工期の関係性を検討する投入人数問題,④請負と雇用の影響の検討の4つについて検討した.

シナリオ①のシミュレーション分析から,作業間に作業を入れる場合の作業分割が,作業を入れない場合よりも工期が短くなることを示した.また,シナリオ②については,工期とフロア数の関係は線形的であることを示した.シナリオ③については,Fig.1に示すように作業者を増員しても,比例的に工期が短縮するわけではないことを示した.また,Fig.2に示すように,作業者数を増員,していくと,作業中の作業現場数が増加しないボトルネック作業の存在を発見できることを示した.シナリオ④については,雇用形式の違いが,総工期日数に影響することを示した.

5.2探索順路に関する分析

ここでは,雇用形式の違い,つまり作業現場の探索順路の違いが総工期日数に影響を分析し,その結果,作業改善に関するパラドックスを発見した.このパラドックスとは,作業時間を短縮する作業改善を行ったとしても,ある条件のもとでは,探索時間の存在とその相対的な大きさのため,総工期日数が遅れてしまう,というパラドックスである.これは,一般的な生産計画においては見られないものである.

6. まとめ

本研究では,集合住宅の内装仕上工事を,『生産資源寄り付き型』のフローショップスケジューリング問題と定義し,そのルールをモデル化する手法を提案した.また,職種毎の作業人員の変化・作業者の作業効率,住戸の稼働率を視野に入れた上での総工期日数の評価という面で有用なモデルであることを示した.また,建築事業上考えられるいくつかのシナリオについてシミュレーション分析を行うことにより,いくつかの有用な知見を得た.特に,内装仕上工事におけるボトルネック作業の発見と,作業改善に関するパラドックスが起こる条件を示した.

7. 今後の課題

本研究では,内装仕上工事における作業と総工期に関しての分析を行ってきた.しかし,現実には施工者と専門工事業者との間での業務交渉による工期遅延の問題が存在する.この問題では,施工者と専門工事業者間での戦略が存在し,施工側としては交渉期間の適正値や交渉に置ける有効な戦略を見つけることが重要となる.この際にゲーミングシミュレーションの方法を用いて,実交渉を再現する形で,交渉と工期遅延の関連性を検討する必要がある.この問題に関して,現在モデルは構築済みである.よって,今後はそのモデルを用いて実際に実証実験を行い,交渉と工期遅延に関する議論を行うことが必要となる.

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